福岡高等裁判所 昭和41年(ラ)2号 決定 1966年3月03日
抗告人
寺田光夫
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨および理由は別紙に記載するとおりである。
よつて考えるに、数個の不動産を共同担保とする場合に申立債権額に相違があり実際の債務額よりすれば、右不動産の一部を競売して債務を完済する見込が十分であるのにかかわらず、全部の不動産について競売手続を進めるなどの特別な事情がある場合には、債務者にとつては重大な利害に関係するから、競売法に準用されるべき民事訴訟法第六七五条にもとづく競落不許の裁判をまつまでもなく、債務者は、申立債権額の過大を理由として、右競売手続を阻止するために競売手続開始決定に対する異議申立をすることが許される。
しかしながら、すでに全部の不動産について競落許可決定が確定した後においては、競落代価の支払など競売手続の完結しない間でも、抵当権の消滅しない限り抵当権を基礎とする競落人の地位は前示債務者の利益よりもこれを保護しなければならないから、債務者は、申立債権額が過大であることをもつてしては、競売手続を阻止することは許されず、したがつて、これを異議申立の理由とすることはできないと解するのが相当である。
本件について見れば、かりに抗告人が主張するように、申立債権額と実際の残存債権額に相違があり、実際の債権額によれば本件競売不動産の一部を競売に付するだけで、債務完済の見込が十分であるとしても、記録によれば、本件不動産全部についての競落許可決定は昭和四〇年九月二〇日の経過とともに確定し、その後である昭和四〇年一〇月四日に抗告人は本件競売開始決定に対する異議の申立をした事実を認めることができるから、もはや抗告人は申立債権額が過大であることをもつて本件競売手続開始決定に対する異議の理由とすることは許されないといわねばならない。
ゆえに、つまりはこれと同旨の原決定は相当で、本件抗告は理由がないから、これを棄却し抗告人に費用の負担を命じ、主文のとおり決定する。(関根小郷 丹生義孝 高石博良)
別紙・抗告の趣旨および理由≪省略≫